ローカライズ
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韓国ゲーム市場への入り口
ゲームローカライズは、韓国ゲーム市場に参入し、韓国人プレイヤーの支持を得ようとしているスタジオにとって非常に重要です。膨大なプレイヤー数に加え、細かいところまで注目する人も多いため、質の高いゲームローカライズサービスへの投資は欠かせません。
PTW KoreaのローカライズマネージャーであるHwaYeon Jeong氏と、ローカライズQAマネージャーであるNamgil Kim氏に、現地のゲーム市場における注意点や、韓国人プレイヤー向けにゲームをローカライズする際の最適解について聞きました。
2024年時点の市場規模は137億ドルであり、であり、2960万人のプレイヤーを有する世界第5位のゲーム市場です。韓国語はアジアのゲーム翻訳言語のトップ3に入ります。検閲ポリシーが最小限であるため、グローバルなデベロッパーにとってアジアで最も自由で魅力的な市場のひとつです。
さらに魅力的なのは、韓国ではゲームが国民にとって非常に身近な存在であるということです(出典:KOCCA - Korea Creative Content Agency)
しかし、この身近で活気に満ちたゲーム文化には、計り知れないチャンスがある一方で、プレイヤーの期待値も高くなっています。
韓国のプレイヤーにアプローチするには、彼らのゲーム文化や期待、嗜好を深く理解する必要があります。これらの期待に応えられないと、重大な結果を招きかねません。例として「ユーザーはローカライズされたゲームコンテンツに強い関心を持っており、ゲームローカライズのクオリティが期待通りの物でないと感じると、クレームを申し立てたり、ゲームをボイコットしたりするほどです」とNamgil氏は説明します。
言い換えれば、韓国のプレイヤーはとても情熱的であり、積極的なので、ゲームの成功は彼らにかかっている、とも言えるでしょう。
韓国におけるローカライズは複雑で細かいプロセスを持つことが多く、プレイヤーのニーズを満たすためには細部に至る言語的な配慮や、文化的な感性を必要とします。
韓国語は言葉の間によって意味が変わることが多く、また親族語や敬語のような複雑なシステムも特徴です。「韓国では、相手との関係性によって敬語や砕けた言葉遣いを使い分けます」とNamgil氏は言います。「例えば、英語の『Aunt』という単語は、父方の叔母であるか、母方の叔母であるかなど、家族関係によって訳語が異なります」プレイヤーを効果的に没入させるためには、ゲーム全体を通して、人間関係のつじつまを合わせ、一貫したキャラクターのディテールを保たなくてはなりません。
ゲームテキストを日本語から韓国語に翻訳するのは、やりやすい場合もありますが、独特の難しさもあります。HwaYeon氏は次のように言います。「私が最も悩むことのひとつは、直訳と意訳のバランスをどう取るかということです。日本は韓国と同様、漢字文化圏に属する北東アジアの国であり、日本語の文法構造も韓国語と似ています」しかし実際には、同じ漢字の言葉でも使い方が異なる場合が多い、と彼女は説明します。「むやみやたらに意訳してしまうと、原文を誤訳し、正確な文脈やニュアンスを失うことになりかねません」
文化的な適応も、韓国のゲーム市場におけるローカライズの重要な側面です。社会、政治、宗教、歴史といった多数の文化的要素には慎重に対応して、潜在的な反発や論争を避けなくてはなりません。例えば、とNamgil氏は次のように説明しました。「人々は、社会経済的要因によって分類されます。財産、収入、人種、学歴、民族、性別、職業、社会的地位、または派生する権力などでです」こうした問題は韓国特有のものではありませんが、不快感や差別を避けるためには慎重な対処が不可欠だと、Namgil氏は強調します。
ただし、韓国特有の話題、特に政治や歴史的な問題は慎重に扱うべきです。日本の植民地時代、朝鮮戦争、韓国の軍事独裁政権に関連する慎重に扱うべき内容もまた、除外されるべきです。Namgil氏はまた、韓国では政治家を揶揄する描写など、政治的な嘲笑はタブー視されることがあると話します。
ローカライズQAテストでは、ゲームのテキストとビジュアルアセットの両方に不具合がないかをチェックすることも同様に重要です。HwaYeon氏は次のように言います。「センシティブな要素のほとんどはテキストに表示されているので、クライアントに報告した後、翻訳段階で修正されます。ですがこういった問題は、データやビルドをプレビューする際に、グラフィック上などで時々見つかることがあります」このような不具合の場合、チームは開発者に不具合を報告し、そのコンテンツが韓国の文化的規範に沿ったものであるかを確認します。
高品質なローカライズの秘訣は、元のゲームの正確性を維持しながら、現地のプレイヤーの文化的規範やプレイヤー自身を尊重することに尽きます。ここで、ゲームへの情熱と知識を備えた多言語の専門家がいるかどうかが、大きな違いを生み出します。
私たちはNamgil氏とHwaYeon氏に、韓国市場向けにゲームをローカライズする際に考慮すべき最も重要な点と、実践的なアプローチについて伺いました。
名前や用語を翻訳する場合、どれを選択するかはスタジオの考え方と韓国語の規範に大きく依存します。HwaYeon氏は次のように説明します。「クライアントから提供された用語をそのまま使うこともありますし、私たちの意見が必要な場合は、最も適切と思われる用語に翻訳してクライアントに提案します」
スラングや慣用句については、意図したニュアンスに沿いつつ、現地のプレイヤーが理解しやすい用語を使うことに尽きます。「韓国で否定的な意味合いを持たずに根強く使われている慣用句であれば、そちらを提案することがあります」とNamgil氏は言います。
HwaYeon氏は、漢字の解釈に関して特別な注意を要した慣用句の例を以下のように話してくれました。
「例えば、最近私が日本語から韓国語に翻訳した文の中に、「不祥事(불상사)」という漢字がありました」これは英語では 「ominous things(不吉なこと)」「misadventures(不運な出来事)」「scandal(スキャンダル)」などといった意味に訳されます。しかし、HwaYeon氏は「原文のコンテキストが意味していることと比べると、妙にしっくりこない感じがした」と説明します。
さらに調べてみると、彼女は「불상사」が韓国語では「縁起の悪い出来事」という意味を表し、主に「自分の力ではどうしようもない事情でやむを得ず起こる、予期せぬ出来事や事故」という意味で使われることを知りました。しかし日本語でのこの語は、ある社会的地位のある個人や集団が起こした、社会的信用を損なうような事件(またはスキャンダル)のことを指します。そこで彼女とチームは最終的に、日本語の原文の意味をよりよく反映させるため、日本語の「不祥事」を、韓国語で「불미스러운 일」(不快なこと、不愉快な事柄)と訳しました。
ユーモアと比喩は、特定の文化的経験と結びついていることが多いため、翻訳は難しくなります。HwaYeon氏はこれを、翻訳者にとって「最も悩ましい瞬間」と表現しています。いくつかの慣用表現は韓国語の同義語に簡単に置き換えられるが、他の多くのユーモラスな要素は原作の言語や文化に深く根ざしている、と彼女は説明します。「100%忠実に反映することは難しい場合が多いです」と彼女は言います。なぜなら、これらの要素は文学作品の独自の面と結びついていることが多く、それを変更してしまうと原文の本質的な部分が失われてしまう危険性があるからだ、とも言いました。
Namgil氏はまた次のように付け加えました。「ユーモラスな表現や比喩を使うときは、まずその本来の意味を理解することが大切です。そして、原文が意味する内容を表現できる韓国語の代替表現をいくつか探し、その中から最も適切なものを選びます」例として、彼はチームが日本語から翻訳した「王さまをささえることです」というセリフを挙げています。これを大まかに英訳すると「supporting the king」という文章になり、これでは王を輿に乗せて運ぶ役を担う兵士のことを指してしまいます。この表現を適切なニュアンスで訳すため、韓国語では「왕을 받드는 것입니다」という訳が選ばれました。これは「王を敬う」と「王を支える」という両方の意味を持っています。
こうした課題を効果的に乗り越えるために、PTWでの翻訳は共同作業であるとHwaYeon氏は強調します。「孤独な作業ではないのです」と彼女は言います。「こういった問題に対しては、通常、複数のメンバーが様々な意見を出し合い、それを集約して最適な訳語を探します」協力的なアプローチにより、チームはそれぞれの文化的要素に最適なものを見つけられるのです。
HwaYeon氏は、音訳(テキストをある文字から別の文字に変換し、元の音を表現することに重点を置いて翻訳する)と、自由訳(元の表現に忠実に翻訳するのではなく、テキストの意味を翻訳する)のどちらを選択するかは、多くの場合、その用語が韓国のユーザーにとってどの程度なじみがあるかによって決まると話しています。
例えば、1800年代の日本における剣豪の精鋭集団を指す「新選組」という言葉は、韓国では「シンセンジョ(신선조)」と呼ばれていますが、様々なフィクション作品に登場することから、元々の日本語の発音にも馴染みがあるため、そのまま使われることもあります。「時には翻訳が難しいその国の言葉もあり、音声的に意味が伝わりにくいと思われる言葉もあります」とHwaYeon氏は言います。このような場合は、韓国語で意味を言い換えたり、直接表現したりすることで、明瞭性と正確性を確保します。
Namgil氏はまた、英語の用語に対するアプローチについて次のように語りました。「多くの英語表現はすでに日常的な韓国語の一部ですが、馴染みのない単語はIPAや外国語の表記を使います」彼は、15世紀のイタリアの武器「チンクエディア」をもじった 『ファイアーエムブレム』の「シンクエディア」のように、オリジナルやパロディ化された用語を尊重し、意味を失うことなく適応させる必要性について強調しています。
ある外国語が韓国でよく使われていて、それに相当する韓国語がない場合は、その語は外国語(外来語)として扱うとNamgil氏は説明します。これは、韓国で一般的に使われている発音とは異なる場合があるため、原文の発音をそのまま表記するというわけではありません。
ローカライズプロジェクトの核となるのは、オリジナルのストーリーとセリフを守りつつも、韓国のプレイヤー向けにアレンジするということです。「翻訳作業で最も重要なことは、原文の内容を忠実に反映させることです。目標は、原文の意味をできるだけ損なわずに伝えることです」とHwaYeon氏は言います。
しかし、スタジオの考え方を伝えることは決して簡単ではありません。これを克服するにはチームの連携力にかかっているとNamgil氏は説明します。「同僚や開発者にフィードバックを求めるなど、こまめにコミュニケーションを取りながらローカライズや翻案作業を進めています」
「もちろん、現地の事情に合わせる必要があると判断する場合もあります」とHwaYeon氏は付け加えました。「これは作品の対象となる年齢層によってもかなり異なってくると思います。このような場合、ローカライズ作業に入る前にクライアントから指示を貰うか、クライアントと相談しながらガイドラインを作成し、作業を進めていくのが一般的な流れです」
元のストーリーを維持できるかどうかは、翻訳者の原作に対する理解度にも左右されます。「ローカライズする上で最も重要なのは、原作やある文学作品に十分な興味を持ち、それに関する背景知識を蓄えておくことです」とNamgil氏は言います。「原作に関する深い知識を持つことで、韓国のプレイヤーの期待に応えつつ、そのゲームの本質を確実に守れるのです」
韓国市場向けにローカライズする場合、多くの考慮すべきことがあります。活発ながらも要求の厳しいゲームコミュニティでは、あらゆる文化的なニュアンスに配慮し、洗練された製品を提供することが不可欠です。
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