ローカライズ
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ゲームローカライズ品質の重要性
質の良い作品を求めていない方はいません。ですが、それがどのようなものを基準とするかは、人によって、プロジェクトによって異なります。これは特にゲームローカライズにも言えることです。ゲームローカライズの過程では通常、プロジェクトマネジメント、翻訳、レビュー、コンテンツマネジメント、プロダクションをはじめとする、多くの関係者の手を経ることになります。懸念点には、翻訳費用、納期、テキスト量など、客観的な観点によるもの、プレイヤーの満足度やタイトルごとの好みなど、より主観的なものの両方があるでしょう。
最終的に維持されなければならないのは、クライアントの基準です。機械翻訳・ローカライズコンサルタントのLaura Casanellasは、「ローカライズの品質はそもそも、クライアントの期待と結びついているため、近年では品質向上をするには場合によって目指す場所が変動するのです」と話します。「プレイヤーが読んだり聞いたりするものが、元からその言語で作成されたコンテンツであると確信できるような、シームレスな体験を提供できるものこそが、結局は最高の翻訳であると言えるでしょう」
基本原理を満たしたローカライズを行うには、プロジェクト開始時に、品質の定義、品質を落とす原因になり得る障害、品質を維持する方法を知っておくことが重要です。
品質を定義する際に、コンテキストを考慮するのは当然のことです。例えば、製品のウェブサイトでスペルミスがいくつかあっても深刻には感じられないかもしれませんが、認定翻訳者のウェブサイトでは目立ちます。同様に、不正確な記述があった場合、マーケティング資料の翻訳よりも医療系翻訳の方が影響は甚大になります。出版社では文字スタイルが命ですが、ユーザーガイドを作る会社にとってはそうではないのです。
「文法の間違いをなくし、文体を洗練させ、セリフを対象の地域に合わせて書き換えなければなりません」とLauraは言います。「そのため、ゲームのローカライズでは、スタイルやコンテキストに関わるミスは大きなペナルティを受けることがあります。また、通常ゲームは複数プラットフォームでプレイされ、それに合わせてローカライズを行うため、各プラットフォームの用語(『ファーストパーティターミノロジー』と呼ばれます)の規則を守って翻訳しなければなりません。これが正しく翻訳されないと、翻訳者には重大なエラーが示され、翻訳全体が品質面から失敗となるのです」
ゲーム業界では、クオリティマネージャーは言語的完成度を重視しますが、コストや所要時間についても、致命的ではありませんが同等に大切です。プロジェクトを扱うすべてのチームが、リリース日までに翻訳を提供し、投資の見返りとして利益を得る必要があります。
業界を代表する企業の多くがローカライズ品質保証チーム体制を確立しています。このチームには、開発者、テスター、プロジェクトマネージャー、言語スペシャリストが所属し、手順と役割を明確にすることで、常に適切な精査を行うことができるのです。
また、ローカライズの品質を評価するために、顧客満足度調査を実施することもあります。そのためには、クライアントとオープンで無理のないコミュニケーションチャネルを築き、フランクで地に足のついたビジネス関係を作らなければなりません。
「PTWの品質は、エラーの種類を特定し、その重大性を評価する言語的品質測定システムによって評価されています」と、PTWのグローバル品質マネージャー、Olga Ewa Mielczarekは説明します。「この評価ツールは、言語スペシャリストのアウトプットに対して行われる測定の基本マトリックスとして使用されています。このおかげで、月単位、四半期単位、年単位で言語担当者のパフォーマンスを評価し、ソースごと、ターゲット言語ペアごと、プロジェクトごと、顧客グループごとなど、さまざまな角度から品質データを追跡することができます」
業界には、優れた品質のリファレンスが多数存在します。ローカライズチームが品質プログラムを構成するために使用するMQM(Multidimensional Quality Metrics)フレームワークなどです。MQMフレームワークは包括的で、潜在的エラーリストを含み、ほとんどの可能性をカバーしますが、利用する各社が自社のコンテンツタイプにとって重要なエラータイプを取り入れられる柔軟性も備えています。
現在、ほとんどのCATツールでは、MQMのようなよく知られたフレームワークに従って定義できる、言語品質保証と自動QA設定が利用できます。
ゲーマーの視点から品質について具体的に定義してみると、ゲーム内で翻訳されたセリフや文章がぎこちなく聞こえない、ゲーム内のキャラクターが使う言葉が自然な流れになっているなど、高い品質基準が見て取れるのです。
翻訳の質がゲーマーの期待を下回っている場合、翻訳段階で翻訳担当者にコンテキストが伝わっていないことが原因であることがほとんどです。
参考資料からのコンテキストが限られていたり、全く提供されない場合もあります。「このようなゲームを後からテストする場合、ローカライズのQAチームは繰り返しビルドを行うため、特定のキャラクターがどのような状況にあるのか、キャラクターの気分はどうなのかを容易に把握することができます」とOlgaは言います。「しかし、翻訳担当者はセリフの流れを自然にしなければなりませんが、物語全体の文脈から切り離され、セグメントに分割した平易なテキストを扱うこともしばしばあります。翻訳担当者がいずれかの形でもゲームに親しむことで、すべての人にとって有益となり得るのです」
突然の変更は翻訳に大きな連鎖的影響を与えることがあります。このような変更の結果については、関係者全員が心得ておかなければなりません。変更の影響は、既存の翻訳メモリの更新が必要な重要用語にも波及し、納期や予算に影響を与える可能性があります。
多くの場合、ガイドラインはあまりにも曖昧で、翻訳者が必要としないような選択肢が多すぎてしまいます。重要なことであれば、プロジェクトガイドラインを書くときに、選択肢を提示するのではなく、指針を示すものになるはずです。問い合わせが間に合わなかったり、翻訳者やレビュアーに伝わらなかったりすることもあります。このような漏れがあると、マイルストーンや最終的な納品期限に影響するかもしれません。まれではありますが、翻訳メモリが最新でなく、矛盾やエラーが含まれていることもあります。翻訳メモリはソースとして信頼できなければならないため、パイプライン下部にまで渡る問題が発生する可能性があります。
また、クライアントがタイトルに対して持っているゲーム特有の好みも品質に影響を与える要因の一つです。「アカウントマネージャーからプロジェクトマネージャー、プロジェクトマネージャーから翻訳者、ポストエディター、レビュアーへ、これらの情報を十分に伝える必要があります」とLaura氏は言います。「オノマトペ(叫びや悲鳴)、大文字の使い方、性別、文型、翻訳不可能な用語など、このような情報はタイトルごとに固有です。翻訳チームは、できるだけ早い段階で、ニーズと要件を定義することが極めて重要です。これは通常キックオフミーティングで行われます」
最後に、(特にライブゲームで)よくあるのが、ゲーム内のコンテンツがアップデートされ、再度翻訳が必要になったが、リリース日が決定しているために期限を延ばすことができないケースです
OlgaはPTWの品質プログラムについてこう説明します。「ソース解析、品質保証チェック、健全性チェック、RCA(Root and Cause Analysis)の手順、スタイルガイド作成プロジェクトなどを通して、品質の向上や手順を実施してきました。また、ContentQuoという言語評価プラットフォームを利用し、さらなる品質チェックと質の高いデータ分析が可能です」
ContentQuoを広く使用することで、すべてのローカライズチームの品質レベルを向上させることができます。もちろん、このツールを効率よく、最大限に活用するためには、さらに拡張されたチームの協力が必要です。翻訳されたコンテンツが原文を反映しているか、適切な用語が使用されているか、すべてのプロジェクトやファイルを通して一貫性が保証されているかを確認するためには、社内または社外の言語品質チェッカーが別途必要です。翻訳担当者と言語チェッカーは、クライアントと自社のコンテンツを評価する問題の認定エキスパートとしての役割を担っています。
「品質プログラムにおいて最も重要なことは、ローカライズチームの全員がそれをよく理解し、その中で自分が取るべき役割を知っていることです」とLauraは説明します。「プレイヤーごとに、取るべき責任は違うということです」
クオリティマネージャーは、戦略の定義、LQAテストのベースとなる品質モデルの作成、ワークフローの設計、プログラムの実施に必要となるツールの選択、関係スタッフ(PM、ベンダーマネージャー、翻訳担当者)のトレーニング、品質結果の分析・解釈、品質戦略の設定を行います。
ベンダーマネージャーは、クオリティマネージャーと緊密に連携し、品質の傾向をチェックし、品質を向上させる方法をデザインし、より良い実践のために言語リソースをトレーニングします。
言語コーディネーターは、LQAチームの調整、翻訳担当者との連絡、議論の仲裁を行います。
プロジェクトマネージャーは、言語コーディネーターやクオリティマネージャーをサポートし、プロジェクトの変更点などを伝え、プロジェクトのリソースを共有します。
レビュアーは、プロジェクトの翻訳品質のスナップショットとなるLQAテストを実施します。作品の出来を採点する観察的な役割と、必要に応じて翻訳者に指示や提案を伝えるインストラクター的な役割があるため、規律正しく公正である必要があるのです。
翻訳者は、LQAの仕組みを理解し、レビュアーから報告された問題点を分析し、今後より良い品質を提供できるように準備します。
小規模なチームでは、言語コーディネーターがいない場合もあり、その場合はプロジェクトマネージャーがその役割を果たすことになります。
品質基準の向上により、ゲームローカライズプロジェクトに関わるすべての関係者がWin-Winの関係を築くことができます。シームレスなゲーム体験によってプレイヤーの満足度が上がり、ポジティブなフィードバックを広げて、全員の評判を高めることに繋がります。クライアントを喜ばせることで、業務のボリュームアップ、増収、長期的なビジネス関係の構築が可能です。ローカライズチームの満足度を上げ、ひとりひとりが自分の責任や立場を理解した上で業務にあたらせることで、経験や自信がつくほどチームは強くなっていきます。